なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?〜変革のリーダーを導き、対立を正しく扱う方法とは〜(前編)

2024-03-05 11:33:02 UTC 2024-08-24 03:55:05 UTC

なぜ、あなたの会社で立てた「良い戦略」が実行されないのか 〜変革のリーダーを導き、メンバー間の「対立」を正しく扱う〜 (1).png

弊社スタディストが、経営者/リーダーの皆様向けに開催したオンラインイベント「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?」にて、バランスト・グロース・コンサルティング株式会社の取締役 西田徹さんに講演いただきました。

講演では、西田さんの著書である『組織が変われない3つの理由』をもとに、組織変革や組織内での対立の扱い方などについてお話しいただいています。

本記事では、西田さんの講演内容をサマリーとしてお届けします。

なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?〜変革のリーダーを導き、対立を正しく扱う方法とは〜(後編)

目次
 

組織開発と戦略構築は統合して考えなければいけない

バランスト・グロース・コンサルティング 西田さん(以下、西田):簡単に自己紹介いたします。

キャリアとしては、まずリクルートに入社しました。当時、「組織開発」事業があった会社はリクルートぐらいで、最先端だったためです。リクルートでキャリアを積む中で、組織開発がいったん成功したのになぜか途中で元気がなくなってしまう現場がありました。そういった会社には何が足りないのか考えた結果、「経営戦略こそが処方箋だ」と考えました。

そこで、ボストン・コンサルティング・グループに転職し、経営戦略のコンサルティングを担当することになりました。しかしそこで、いかに戦略の重要性を提言しても実行に移してくれる企業は非常に少ないという現実に直面しました。無力感を抱くと同時に、私は組織開発と戦略構築は統合して考えなければいけないという結論に達しました

その後、何度かの転職やプロセスワークとの出会いを経て、現職に至っています。

2023年12月27日には、新たな書籍『組織が変われない3つの理由』を出版しました。

変革を実現する戦略的組織開発とは?

西田:今回は「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか」というメインテーマとともに、関係の深いサブテーマである「メンバー間の対立」と「変革のリーダーシップ」について、計3本立てでお話しします。

まず、みなさんに質問です。

経営者、事業責任者、リーダーの方。みなさんは戦略を立てましたか?これにはほぼ100%の方がイエスとお答えになると思います。

続いて質問です。その戦略は、実行されましたか?過去にもこの質問をしてきましたが、「実行されましたか」の質問に対しては目を伏せる方が多いです。

みなさんが立てた戦略は、きっと良い戦略なのだと思います。では、良い戦略なのになぜ実行されないのでしょうか。

まずこの点を考えていきたいと思います。

戦略実行のヒント:コングルーエンスモデルとは

西田:そのヒントとなるのが、1977年に作られた、組織開発と経営戦略を統合したコングルーエンスモデルです。

外部環境は常に変化し、それに合わせてビジョンや戦略も作り直さなければいけません。すると、より具体的な重点課題・組織構造/業務プロセス・組織文化・人材といった部品も、ビジョンや戦略に合うよう作り直す必要があります。これらがうまく作り直せるとアウトプットが出るというのが、コングルーエンスモデルです。

コングルーエンスという言葉は「一致している、足並みが揃っている」という意味です。

外部環境変化に足並みが揃った戦略と、打ち出された戦略に対して足並みが揃った4つの部品によって、結果が出るということになります。

外から「良い戦略」を与えた場合に起こる「インコングルーエンス」

西田:では、外部から良い戦略を与えるとどうなるのか。例えば、マッキンゼーさんや、御社の中の非常に優秀な経営企画部員に依頼してみます。するとその方々は、変化した外部環境にぴったり合う戦略を作ってくれます。

西田:良い戦略ができたからこれで結果も出るんじゃないか、と思いたいところですが、なかなかそうもいきません。この状態では、組織文化や人材が取り残され、戦略が実行されないからです。

古い組織文化と新しい課題が合わない、あるいは、昔からの人材の能力と新しい業務プロセスが合わないといったインコングルーエンスが起きて、結果が出ないのです。

西田:また、何度もブームが繰り返されている組織開発ですが、これをやることで仲の良いチームができてみんな元気になります。しかし、これだけでは業績・売上・利益になかなかつながりません。

多くの企業で、以前は仲良くできていた部署同士が今は対立している、という状況があります。これは、外部環境の変化に戦略が対応できていないため、組織にひずみが起きている状態です。外部環境の変化を無視して組織開発をおこなったとしても、根本の原因である戦略が何も変わっていないので、すぐにもとの状態に戻ってしまいます

このあたりが、今回のメインテーマである「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか」という問題の構造です。

戦略実行のポイントは「内発的動機づけを尊重」

西田:インコングルーエンスを回避する方法を考えましょう。

図の左側は、外部から素晴らしい戦略を与えた場合です。先ほど見たとおり、現場の当事者意識が低いまま出来の良い戦略だけが来ても、戦略は実行されません。

では、どうすればいいのか。内発的動機づけを尊重するのです。

現場の当事者意識を高めていき、危機感が高まったら現場が自分で打ち手を考えるようにします。打ち手の出来の良さは低くても構いません。出来が60点の戦略でも、自分たちで作ったものなので実行に移されます。これがポイントです。

実行すると、戦略の良いところと悪いところが見えてきますから、改善していけばいい。自分たちで少しずつ改善するなかで、さらに当事者意識が高まっていきます。するとより良い打ち手ができ、当事者意識も高まり、成功にたどり着きます。

組織開発によってIBMをV字回復させたガースナー

西田:「内発的動機づけ」を実践しているのが、IBMのルイス・ガースナーさんです。ご存知の方も多いと思いますが、超カリスマのプロ経営者です。ハーバード大学ビジネススクールを卒業、マッキンゼー出身。彼によるIBMのV字回復は有名です。倒産寸前だったIBMは、彼がCEOに就任し、IBMのタブーを破ってお客さま向けにオーダーメイドのソリューションを提供したことで、目覚ましく株価が上昇しています。

ここで、ガースナー本人の声を聞いてみたいと思います。

 

『私がIBMの経験で学んだ最も素晴らしいことをお話ししましょう。組織文化は、大企業を経営するための様々な要素の1つに過ぎないと、最初は思っていました。だって、そうですよね。マーケティング、ファイナンス、製造があります。そしてようやく組織文化のことを考え始めるのが普通です。でも違うのです。組織文化が全てなのです。』

 

西田:ガースナーが伝えたいことは「多くの人は、組織文化を、大企業を経営するさまざまな要素のひとつに過ぎないと思っているが、違います」ということ、「Culture is Everything。組織文化がすべてなのです」ということです。これを言えるからこそ、ガースナーは組織開発のカリスマでありプロなのです。

組織文化を直接変えるのではなく、「行動」から変えていく

西田:みなさんも、自社の組織文化を良い方に変えたいとお考えでしょう。そこでよくある打ち手が、標語やハンドブックの作成です。これらはまったくの無駄ではありません。しかし、組織文化の理論をご理解いただくと、その考えも変わると思います。

まず、組織文化には自己増幅サイクルがあります。それは特に、組織がうまくいっているときほど起こります。

そして組織文化が強いと、特定の行動が強く奨励され、スタッフは無意識のうちにその行動を行うようになります。

その行動や組織文化が外部環境や戦略に合っていればパフォーマンスが出ます。売上や利益が上がり、お客さまも喜ぶ。すると無意識のうちに「うまくいっているじゃないか」「我々の暗黙の行動規範はすごいんだ」と、組織文化が増強されていきます。

しかし、組織文化が時代遅れになってしまった際は、どこかでサイクルを断ち切らなければいけません。その際に多いのが、新たな組織文化の標語を張り出したりハンドブックを配ったりすることです。しかし、残念ながらこれは理論的に効果がないとされています。

もちろん例外はあります。こういった打ち手が効果的なのは、組織文化を直接変えられる創業社長などが実行した場合のみです。例えば「スピード!スピード!スピード!」で有名な、楽天の三木谷 浩史さん。彼のように、楽天で働く方にとってカリスマとしか思えないような大物社長なら、組織文化を直接変えることはできると思います。ガースナーでさえそれはできなかったので、ガースナーは違うことをしました。

組織文化に直接アプローチするのではなく、多少強引でも社員の「行動」のほうを変えさせることで、組織文化を変えさせたのです。

社員の行動を変えさせた結果、より良いパフォーマンスが得られると、「暗黙の行動規範と違うことをやってみたら、かえってうまくいった」と組織文化が書き換わっていきます。

その代表例が、ガースナーの「白シャツ禁止令」です。

ガースナーは、社員に白いシャツやダークスーツを着ることを禁止しました。

それまでIBMでは、白いシャツとダークスーツの着用が常態化していました。過去にお客さまが白いシャツとダークスーツを着ていることが多かったため「顧客と同じ服装を」という思想からです。しかし、お客さまのファッションが変わった現代にも、IBMには白いシャツとダークスーツ着用という規則だけが残ってしまったのです。これでは本末転倒ですね。

なのでガースナーは「お客さまと同じような服を着る」という本来の意味で白シャツ禁止令を出したのです。

社員の服装(行動)を変えたことにより、組織文化が書き換わり、IBMは顧客重視の文化を取り戻すことができました。

組織文化が変わることで、経営戦略も変わる

西田:ガースナーが組織文化を変えたことで、経営戦略にも変化が現れます。

ここで登場するのが、IBMの子会社の社員であるデニー・ウェルシュです。IBM本社を主流派とするなら、ウェルシュは子会社の所属なので、非主流派の人なんですね。

ガースナーは著書『巨像も踊る』で、『運が大きく味方した、デニー・ウェルシュと会ったことだ』と綴っています。

ウェルシュは秀逸なアイデアを持っており、ガースナーの白シャツ禁止令で顧客重視の文化が取り戻された状況で、ようやく非主流派も声を大にできるようになったのです。

ガースナーが実行した、IBMのタブーを破り、他社の競合の製品も取り扱いメンテナンスもするという、大胆な戦略。実はこれを考えたのはガースナーではなくウェルシュです。

つまり、ガースナーが白シャツ禁止令によって組織文化を顧客ファーストに書き換えた。それによって非主流派の人物から、顧客ファーストにマッチした秀逸な戦略が出てきた。この戦略をガースナーが採用し、IBM全社戦略そのものになった、という流れです。

 

西田:ガースナーが実行したIBMの改革を、もう一度先ほどの図解を照らし合わせて見てみましょう。

組織文化を変えることによって当事者意識を高めた、あるいはウェルシュのようなもともと当事者意識が高かった人が社内で声を上げられるようになった。そして、ウェルシュが自ら考えた戦略を実行し、実行していくなかでより精度の高い戦略へと持っていった、ということです。

なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?〜変革のリーダーを導き、対立を正しく扱う方法とは〜(後編)