タイ法人立ち上げで培った現地社員の脱属人化〜社員の入れ替わりが多い風土だからこそマニュアルが活きる〜【後編】

2022-12-23 03:16:55 UTC 2023-03-07 09:16:50 UTC
タイトル

前編に引き続き、弊社スタディスト・タイ拠点の責任者である豆田裕亮による「タイ法人立ち上げで培った現地社員の脱属人化〜社員の入れ替わりが多い風土だからこそマニュアルが活きる〜」セッションのレポートをお届けします。
後編では、フェーズ2(1回目の引き継ぎ時)、フェーズ3(2回目の引き継ぎ時)についてご紹介します。
聞き手は、プロダクトマーケティングマネージャーの木本俊光が務めます。

目次
 
フェーズ2 管理業務の初回引き継ぎ~業務可視化の継続~ 「月次か年次か」「オンライン可能か」などをチェックし、引き継ぎの計画を立てる 作業の理解度を5段階に分け、「1人でできる」を目標に引き継ぎを開始 引き継ぎと同時に、オンラインでできるようにマニュアルを更新 他部門も可視化しておくことや、反転学習を意識することも重要 フェーズ3 管理業務の2回目の引き継ぎ~属人化防止サイクルの安定化~ 4年かけてマニュアルの整備とリスト化を進め、属人化防止の取り組みに成功 質問1:属人化防止の取り組みについて、他の日本企業からの反応は? 質問2:職種変更を打診する際、現地スタッフに嫌がられることはなかったか?

フェーズ2 管理業務の初回引き継ぎ~業務可視化の継続~

豆田:
フェーズ2、1回目の引き継ぎ時における可視化についてお話しします。

引き継ぎの背景には、社員番号1にカスタマーサクセス(CS)への職種変更を打診したことが挙げられます。
事業全体を考えると、将来的にCSスタッフが不足する懸念があったのですが、CSを新規採用するよりも、管理部で1年間実際にTeachme Bizを使って多くのマニュアルを作った経験のある社員番号1にサポートしてもらう方がよいのでは、と考えて異動を打診しました。無事社員番号1の承諾を受け、管理部の方に新たにスタッフ(社員番号2とします)を採用することになりました。

また、ちょうどコロナウイルスの感染拡大が始まり、ワーク・フロム・ホームになった時期だったため、オンラインでの引き継ぎ作業、リモートでのマニュアル更新もこの機会に進めました。

「月次か年次か」「オンライン可能か」などをチェックし、引き継ぎの計画を立てる

引き継ぎ計画

豆田:
では、具体的な引き継ぎ作業をご説明していきます。

まず、マニュアル化の際に作成したリストをベースに計画を作っていきます。すでにすべての手順のマニュアル化は完了しているため、1つずつ「月次作業か、年次作業か、イベント発生時の作業か」「給与に関わるか」「ワーク・フロム・ホームができるか」といったところをチェックしていきます。

最も重要なのが「ワーク・フロム・ホームができるか」です。どれも元々は会社でやる作業だったのですが、1つずつ精査しながら家でできるようにプロセスを修正していきました。

「給与に関わるか」をチェックする理由は、タイの試用期間がマックス119日間あることに関係しています。119日間の冒頭に給与関係の仕事をしてもらっても仕方がないため、基本的にこれは最後の方に回します。

そうすると、「引き継ぎ対象者がマニュアル全体のどれくらいをまず覚えればいいか」のゴールが見えてきます。例えば、月次作業が23個あり、それ以外は年次や人が辞めたときや入ったときの作業だと分かれば、「まずこの23個を覚えてもらおう」という流れで試用期間を進めていくことができます。

作業の理解度を5段階に分け、「1人でできる」を目標に引き継ぎを開始

ゴール設定

豆田:
続いて、作業の理解度を「知らない〈Not yet〉」「マニュアルを読んで知っている(が、できない)〈Not yet〉」「やったことがある〈Did〉」「マニュアルを見ながら1人でできる〈Can〉」「改善できる」の5段階に分け、それぞれの作業に対して引き継ぎ対象者が今どの位置にいるかを明確にします。

これで、「月次作業23件について、マニュアルを見ながら1人でできる〈Can〉」という目標基準ができます。5段階目の「改善できる」は正式入社後で問題ないので、試用期間119日の間に4段階目を目標に引き継ぎを実施していく、というわけです。

引き継ぎと同時に、オンラインでできるようにマニュアルを更新

豆田:
この時期には引き継ぎは完全オンラインになっていたため、先輩社員がTeachme BizのURLを渡して「これを見ながらやってみて」と指示する形で実施しました。会社で隣に座って教えるのではなく、家でマニュアルを見ながら仕事をしてもらうという方法です。

これに合わせてオンラインで完全に1人でできるようにマニュアルを更新したため内容がよくなり、結果的に引き継ぎも早めに進んでいきました。従来119日間で引き継ぎを行うところが、約90日で「月次作業23件について、マニュアルを見ながら1人でできる〈Can〉」という段階に達したので、引き継ぎ完了として前倒しで試用期間も終わり、社員番号2は正式採用となりました。

引き継ぎ完了後に何をしてもらうかですが、弊社の場合は他部門の作業を依頼しています。管理部スタッフは月末月初は経理事務作業が集中しますが、月中は比較的時間があるため、その間インサイドセールスを担当してもらっています。

インサイドセールスに関しても、単純作業やパターンワークはマニュアル化・可視化しているため、管理部スタッフでも作業が可能となっています。このように、日頃から他業務も可視化しておけば、少人数組織のリソースでも多くのことができるようになります。

他部門も可視化しておくことや、反転学習を意識することも重要

フェーズ2

豆田:
取り組み継続のポイントまとめです。こちらも青字部分をキーワードとして押さえていただければと思います。
単純作業・パターン化作業といった誰でもできる作業は、マニュアルに落とし込んでおいて、比較的業務が多くなった場合にできるようにしておきましょう。

採用時にマニュアル更新フローを作っておくと非常に楽です。マニュアルを見ながら作業する中で、分からない部分などを肉付けしていくと、年1回程度は自然とマニュアルの更新ができます。

余剰リソースについては、先ほどご紹介した通り、他部門も可視化しておくとよいでしょう。

パターンワークはマニュアルを見ながら作業できるようにしておけば、教える時間が激減します。
そして、反転学習の形をとれば、基本的に先輩が教える工数は1~2割になってくると思います。

フェーズ3 管理業務の2回目の引き継ぎ~属人化防止サイクルの安定化~

4年かけてマニュアルの整備とリスト化を進め、属人化防止の取り組みに成功

フェーズ3

豆田:
フェーズ3は2回目の引き継ぎです。1回目と同じく、管理部スタッフ社員番号2のCSへの異動が理由です。

社員番号2は実際に引き継ぎを経験しているので、スムーズに次の新入社員への引き継ぎも進みました。この時点ではマニュアルはさらに増えていたので、試用期間の1カ月目に23件、2カ月目に22件、3カ月目に25件、4カ月目に19件を覚えてもらうことで引き継ぎ完了となりました。

このように、4年かけてマニュアルの整備とリスト化を行い、5人の組織でも管理部は属人化せずにスムーズに引き継ぎもできるようになりました。

今後ですが、CSへ異動された社員番号2が留学のため来春に退職するため、来年2~3月にまた新人社員を採用し、これまで同様に引き継ぎをして、現在の管理部スタッフにはCSに異動してもらう予定です。

以上が、スタディストのタイ拠点における少人数法人組織での属人化防止の取り組みになります。

質問1:属人化防止の取り組みについて、他の日本企業からの反応は?

木本:
いくつか質問をさせてください。
まず、タイ拠点を持つ他の企業様や日本法人から、この取り組みについて感心されたり驚かれたりしたポイントはありましたか?

豆田:
おそらく、他の企業はそもそもこうした取り組みをされていないと思います。販売会社として海外に出てくると、やはり売上を上げることがメインになるので、こうした施策に時間をとることは難しいためです。

ポイントは、作業とマニュアル作成をセットで依頼したことです。わざわざマニュアルを作る時間をとるのではなく、「マニュアル作ることも仕事だよ」と常々伝えておくことが重要だと思います。実際に、社内のマニュアル累積作成数で、タイ拠点の管理部スタッフだった社員が現在ナンバー10に入っていますし、それくらい常に作ってもらっていました。

質問2:職種変更を打診する際、現地スタッフに嫌がられることはなかったか?

木本:
管理部からCSへの職種変更を打診した際に、嫌がられるようなことはありませんでしたか?

豆田:
1人目のときは後出しでのお願いだったのですが、2人目からは「基本的に、1年後にジョブチェンジしてもらいます」と最初から説明していました。

最初から「1年間は管理部の業務改善活動だと思ってください」と伝え、いかに無駄な作業を減らすかを意識してもらっています。実際に1人目から2人目に変わったタイミングで、管理部の締め作業にかかる日数が5営業日から2営業日まで短縮できたことなど、改善効果が出ています。

管理部を1年担当した後、ジョブチェンジしてマーケティングやCSに異動してもらうというのは、もう既定路線になっていますね。これには給与の問題もありまして、管理部を続けてもらうより、マーケティングやCSに異動してもらう方が、作業内容を踏まえて2年目の給与を上げやすいんです。

木本:
なるほど。日本とは違うところも多いため、他にも聞きたいことはあるのですが、時間も迫ってきましたので、本日のセッションは以上にしたいと思います。
ありがとうございました!